スマートシティの"今"がわかるスーパーシティ構想とは

最終更新日:2021年01月02日

スマートシティとは、最先端技術を使って都市の一部機能に関する実証実験を実施している都市で、スーパーシティとは都市そのものを高度化した未来都市のことを指します。

スマートシティに関する実証実験は世界の複数箇所で実施されて、検証の結果や知見も溜まってきていますが、日本ではスモールサイズの実証実験であるスマートシティの次の段階となる、街そのものを未来都市化するスーパーシティ構想が進められています。

ここではスーパーシティ構想とはいったいどのようなものか説明します。

スーパーシティ構想に至る背景とは

1990年代以降、インターネットの発達によって情報化社会がもたらされましたが、急激な発展の歪みから少子高齢化など多くの社会問題も生み出してしまいました。

世界中の先進国は同じような課題を抱えていますが、2015年に国連サミットで提唱されたSDGs、2016年には国内向けにsociety5.0が提唱され、日本では持続可能で超スマート化された社会を目指すことが目標に掲げられました。

society5.0では、ICTやIoT、AIやビッグデータなどの先端技術を社会生活に取り込み、多様性を認めた誰も取り残さない社会を達成することで、将来も持続していける都市・社会を作っていくことを目指します。

2000年初頭に政府が省エネや経済発展を目指す都市計画として打ち出した方針がスマートシティでしたが、近年ではスーパーシティ構想として国家的にプロジェクトが進められています。

スーパーシティ構想の概要

スーパーシティ構想は、2030年程度の実現を目指す住民目線の未来社会です。ポイントは、AIやビッグデータなど先端技術を活用し、行政手続、交通、医療、教育などの分野をまたぐ先端的サービスの提供やデータ連携、先端技術を使ったサービスが提供できる規制緩和を進めていくことが想定されています。

スーパーシティ構想を進めるための法改正

スーパーシティ構想を実現するため、2020年5月27日に「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律」が成立されました。

参考:国家戦略特別区域法の一部を改正する法律 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/kettei/r202005.html

この法改正によって、AIやビッグデータを活用したサービス開発ができるように都市をOSとしたデータ連携基盤を整備、特別区域内での規制の特例措置、ICTやAIなどの先端技術を用いて未来化された都市を作っていくことが可能になりました

スーパーシティ構想が実現できる場所は、法規制を緩和できるスーパーシティ型国家戦略特別区域の中で、検討されているテクノロジーを実装していくことができます。どの地域で構想を進めるかは、現在政府が自治体向けに公募を行っています。

スーパーシティ構想で目指す都市像

スーパーシティ構想で目指す都市像は、データ連携基盤(都市OS)を中心に、区域内に存在する企業や住民の情報をさまざまなサービスと接続し、連携してサービスが利用できることです。

具体的にどのようにサービスを連携していくのかはまだ構想の段階ですが、例えばモバイルデバイス1つで交通利用や入館カード、医療利用時の健康データなど、複数のサービス間をデータやICTを活用して便利に利用できる社会を目指しています。

現在検討されているいくつかのアイデアをみていきましょう。

後期高齢者向けの通院対策

【課題】ある地域で免許を返納した高齢者が地域内で増えていますが、高齢化する地域のためタクシーの数も少なく、利用頻度が高ければ料金がかさみ、通院を断念する人も出ています。

【構想案】高齢者が地域内で利用できる電子通貨を自治体管理で発行し、ボランティアタクシーを割安で利用できるようにサービス展開します。運転のボランティアを実施した人にはポイントを発行して他のサービスの割引利用などに使えるようにします。

通院予約や遠隔医療などの地域包括ケアとボランティアタクシーの配車システムを連動させ、社会保障費の抑制や地域交通の合理化を図ります。

健康・未病・医療を繋ぐ

【課題】地域内で脳卒中死亡率が高い、塩分摂取量が多い、歩行・運動不足など健康問題を抱えており、医療費などの社会扶助費用が増大して地域の財政が逼迫してしまうため、市民のヘルスケアプログラムを実装したまちづくりにチャレンジしていきます。

【構想案】ヘルスケアプラットフォームを構築して、運動や食事などの記録をモバイルやウェアラブル端末から収集、パーソナライズ化された運動プログラムの提供や発病リスクのアラートなど健康アプリを通じて促進します。

これらのライフログと医療データを連携して、健康状態から予防、治療までのサイクルを連続して把握できるようにします。

ライフログや健康診断データが電子カルテに統合され、もし発病した場合には自覚症状が出る前にAIによる受診やオンライン診療、オンライン服薬を可能にし、再発予防や健康維持の推奨などを行っていきます。

観光を起点とする

【課題】地域において観光地が点在しているが、観光地同士の協力関係が弱く、プロモーションも個別に実施して顧客を奪い合っている状況で、観光が主力産業になれません。

【構想案】観光地を効率的に回遊する自動走行車両を導入し、観光動線以外に伝統工芸の制作や着物体験などのものづくり体験もツアーに折り込み、ものづくりツーリズムを実現していきます。

顔認証やワンスオンリー技術を活用して観光客のIDを発行、域内を完全キャッシュレスにして、免税やクーポン、自宅配送などの観光サービスを高セキュリティで提供します。

また、観光コンテンツの付加価値を高めるために、AR・VR・アバター技術を活用した観光客の呼び込みを実施します。

参考:[「スーパーシティ」構想について]内閣府地方創生推進事務局 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/supercity.pdf

スーパーシティ構想が抱える課題

便利で快適な未来都市を目指す構想ですが、実現のためにはいくつかの課題があります。

住民の合意が得られるのか

スーパーシティ構想で目指す社会は、特別区域内で事業を営む企業や在住する住民の情報をデータ連携基盤である都市OSに集約し、データを共有してサービス利用の利便性を高める社会です。

これを実現するためには、計画段階で住民や利害関係者の合意を証する書面の提出をもとに規制改革などを実施しサービス開発を進めていく必要があります。しかし、企業や住民がパーソナル(個人情報)に近い情報の提供に合意を得ることができるのかは未知数です。

特別区域に指定する自治体は、人口増加や国による金銭的援助、企業誘致なども見込めるため、特別区域の立候補には積極的になりますが、スーパーシティを実現するためには住民全員の合意がなければシステムは完全ではありません。

規制緩和と個人情報

改正法案において、スーパーシティ構想の実現に向けた規制緩和ができるようになりました。自動運転やドローン運用にむけた特別措置は問題ありませんが、個人情報データを都市OSに集約できる点も緩和できてしまい、個人情報保護の観点からすると心配されている面があります。

医療介護の点では、ある程度綿密な個人情報が連携されているほうが安心ではありますが、犯罪抑止のための監視やプライバシーを考えると、国家による過剰な情報管理が行われないか心配する声もあがってきています。

いくつかの課題もありますが、スーパーシティ構想があるべき未来の姿を目指していくことは確かです。未来的な生活を実現するには、個人データの連携が必須になるので、高度な先端技術の導入とともにセキュリティシステムも高度に進化させていかなければなりません。

これからさらに進んでいくスーパーシティが安全安心な社会であるように、住民全員で日々の進捗を見守っていく必要があるでしょう。

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