スペシャルインタビュー「観光・旅行とスマートシティ」(株式会社アマデウス・ジャパン)

最終更新日:2020年01月24日

- ResorTech特集記事 -
「観光・旅行とスマートシティ」(株式会社アマデウス・ジャパン)

 本記事では、2020年2月に開催されるイベント「リゾテック・オキナワ(https://www.resortech.okinawa/)」のスペシャルセミナーにご登壇いただく企業様のテクノロジーや、沖縄観光とソリューションに関する取材記事となります。
 グローバル企業が考える沖縄について、非常に貴重なお話をいただけましたので、ぜひ最後までご覧いただけると幸いです。なお、今回の取材内容とイベント当日のセミナー内容は異なります。

 イベント会場内では、沖縄の観光業とITソリューションを結びつける「インダストリンクITソリューション商談会」にて様々なITソリューションをご確認いただけます。今抱えている課題をITソリューションをもって解決する糸口になれば幸いです。少しでもご興味を持たれましたらぜひ、会場までお越しください。
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スペシャルセミナー1日目(2月5日)「株式会社アマデウス・ジャパン」様からは、セミナー講師を務められます、オンライントラベル部門ディレクターの加藤 氏からお話を伺うことができました。



ー アマデウスとはどのような会社ですか
 
 アマデウスのことはご存知ですか?知っている方は、本当にごくわずかで、旅行会社の方々は知っているかな?という程度だと思います。
 
 皆様が海外旅行や海外出張に行く際、街なかにある旅行会社の店舗に行ったり電話をしたり、あるいはオンラインで検索して航空券を購入されていると思います。皆様のリクエストに応じて旅行会社が航空券を手配する際に利用するシステムがアマデウスです。オンラインで飛行機を予約する際の検索予約エンジンも提供しています。海外航空券を購入する際、皆様は知らないうちにアマデウスのテクノロジーを使っている、とご理解いただければと思います。



 これが一般にわかりやすい部分ですが、実はもう1つ大きな事業があります。航空会社は機材を飛ばして日々ビジネスを動かしていますが、航空会社が運航を管理するためのホストシステムをアマデウスは提供しています。例えば飛行機の予約、座席の在庫管理システム、空港チェックインシステム、積み込む荷物の重さを計ってバランスを整えたりするようなシステムなどです。そうした航空会社の裏で使われているアマデウスの「旅客サービスシステム」は、現在世界各国の多くの航空会社に採用されています。
 


 最近はサービス提供分野が多角化してきており、レンタカー会社向け、ホテル向け、鉄道会社向けソリューションに加え、観光局(DMO)向けデジタル広告事業、ビッグデータの解析システムなども提供しています。アマデウスの事業を一言で説明するなら旅行業界の「黒子」です。
 
ー 空港のシステムは、貴社のソリューションということですか



 はい、多くのところでご利用いただいています。他にも、空港向けIT事業も提供を開始しております。航空会社向けではなく、空港を運営している事業組織向けです。グランドハンドリングと呼ばれる、空港のオペレーション事業を展開する会社向けのソリューションも提供しています。

ー ホテル向け、レンタカー向けのサービスも行っているということですが、全てが1つのMaaS(マース)※ のシステムとして稼働していますか
※MaaS(マース)とは:”MaaS は、ICT を活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を 1 つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ 新たな「移動」の概念である。”(国土交通省 国土交通政策研究所報第 69 号 2018 年夏季)
 
 それが究極の理想の形ですが、全てを繋げシームレスな旅行商品を提供している旅行会社は、私が把握している限りまだ存在していません。アマデウスは、多種多様な旅行コンテンツを「アマデウストラベルプラットフォーム」に統合し、提供し始めています。コンテンツには本当にいろんなパターン、いろんな通信方法があるため、それを1つにまとめるのがアマデウスの事業であり、それをエンドユーザーに提供するのが旅行会社側です。旅行会社は、アマデウスワンストップ※(ワンストップ:1つの場所から様々なサービスが受けられる環境)で、色々なコンテンツの手配ができます。アマデウスは旅行会社ではないため、直接エンドユーザーにサービスをご提供するわけではないのです。
 テクノロジーも事業構想も非常に進んでいる旅行会社は、理想の旅行販売をいち早く実現させるためにかなりの投資をしています。旅行者のテクノロジーに対する「慣れ」や「期待」が今まで以上に大きくなっている時代だからこそ、便利なサービスの迅速な提供において各社しのぎを削っています。
 
ー アマデウスが考えるスマートシティについて



 アマデウスはスマートシティをこう定義しています。高度な技術インフラ(例えば生体認証など)を活用して市民の生活の質を向上させ、観光を強化し、経済を推進することができる都市。つまりスマートシティは住んでいる市民の利便性と同時に、訪問する観光客の利便性も向上させるまちづくりが前提になります。
 
 スマートシティは日本でも様々な構想がありますが、事業社や自治体だけでは成り立ちません。事業社と自治体、そしてアマデウスのようなトラベルITプロバイダーの3者がタッグを組むことで初めて可能になるプロジェクトです。
 
ー 旅行のシステムのみではなく、まちづくりまで視野に入れたシステム開発も行っていますか

 スマートシティは、住民と観光客の両者にそれぞれ対応したアプローチを考慮し創っていく必要があります。具体的には両者の移動手段も当然想定されます。生活道路の混み具合、空港へのアクセス、空港からのアクセス、到着時、出発時など様々なシーンを想定することが重要です。
 アマデウスは、これらの「移動」全体をスムーズにし、促進していくことを目標としているので、必然的に全体的なまちづくりと密接に関係していると考えています。
 
ー 現在、実際にスマートシティの実現に向けて着手している事例はありますか 

 はい。アマデウスのAPAC※(アジア太平洋地域)の開発拠点はバンコクにあり、タイとアマデウスは親密な相互協力関係を築いています。バンコクは交通渋滞で有名です。空港やプーケットなどのリゾート地を含め、スマートリゾートプロジェクト、ならびにスマートシティプロジェクトが現実に始動しています。
 沖縄というプロジェクトのもと、いつの日かアマデウスと事業者と自治体の皆様で実現することができれば良いなと考えています
 
ー 今回のセミナーの内容と沖縄の優位性やデメリットについて

 アマデウスのことを知っていただきたいのはもちろんですが、沖縄のポテンシャルが非常に高いということもお伝えしたいです。
 沖縄はアジアの玄関口であり、那覇と石垣という2つの国際空港を擁し、様々な便が発着しています。昨今クルーズ利用も増えているとはいえ、まだ大多数の旅行者の動きは航空機を中心としています。つまり航空データを綿密に分析することで、旅行者の出入りが高精度に把握できる観光地といえます。
 今後も観光客は増えてくると思いますが、観光客が増えるとどうしてもオーバーツーリズム※(オーバーツーリズム:”特定の観光地において、訪問客の著しい増加等が、地域住民の生活や自然環境、景観等に対して受忍限度を超える負の影響をもたらしたり、観光客の満足度を著しく低下させるような状況。”(JTB総合研究所)という問題が出てきます。オーバーツーリズムは観光客にとって不便になりますが、住んでいる方も不便になります。京都ではすでに問題化しており、住民の足であるバスに観光客が巨大なスーツケースを持って乗るため、市民が乗れないといった問題も頻発しています。



こうした場合、アマデウスのソリューションでは、人の大きさほどもあるスーツケースは空港ではなく街なかでチェックインして預け、次にスーツケースを受け取るのは飛行機に乗って目的地に到着したとき、という解決方法を実施しています。そうすることで旅行者は、飛行機の出発時刻まで手ぶらでゆっくり遊ぶことができます。私だったら空港へ向かう途中の駅で降り、現地ならではの美味しいものを食べてから空港に向かいますね。沖縄は観光地としての資源が非常に豊富なので、このソリューションは有効だと考えます。
 


 沖縄に住んでいる方々は海、自然、文化を非常に大切にされていらっしゃいます。その方々の生活のためにも、テクノロジーが一役担えることは間違いありませんし、住民と観光業の調和の点でもスマートリゾートというのは沖縄経済の起爆剤になるのではないかと考えています。
 
 旅行という観点から見た沖縄のデメリットは、しいてあげるなら台風シーズンでしょうか。台風は、旅行者にとっては思いがけない旅程の変更につながり、大きな不便や不満をもたらします。そのような不測の事態をスマートに解決するITは、今後ますます重要になるでしょう。台風に遭遇することは確かに不運ではありますが、乗り越えていけると考えています。
 
ー 観光地沖縄のスマートシティ化による、観光、旅行の変化、未来について

 ビッグデータを使って、観光資源の状態で人々の動きがどうなるかを予測することが重要です。大変残念なできごとでしたが、首里城を例にあげて考えますと、ビックデータを駆使すれば、観光客の導線の変化が見えてきます。県内のほかの歴史建造物への訪問がどのように影響を受けているのか、どの国からの訪問がどのように影響を受けたのか、首里城の復旧状況に合わせ、周辺施設を含めどのように回復していくのかといった状況を把握することが可能になります。何となく想定するのではなく、やはり生きたデータ、一番新しいデータを見ることで、今までとは違うかたちで復旧のアプローチができるのではないかと考えています。
 
 スマートシティにおいては、パーソナライゼーション(個人に合わせたサービス提供)が非常に重要になりますが、アマデウスがパーソナライゼーションに対して提供可能な分野というのは、都市機能の中では非常に限定的で、飛行機、レンタカーといった「移動体」の部分が中心になってきます。アクティビティの提供事業者や小売店との連携も実現できればとも考えています。
 アクティビティの提供事業者が抱える問題に、「帰国便」があると聞いたことがあります。空港までの道や空港内の混雑が心配で、ちょっと前倒しで観光を切り上げ空港へ移動。しかし、蓋を開けてみればその時は道や空港がガラガラで旅行者が2時間も空港内で時間を持て余した、というような出来事です。



旅行者に時間を有意義に使っていただくためにも、空港や道路の混雑状況を正確に把握することが重要になります。こうした細かな部分の最適化の実現で、旅行者の滞在時間が有意義になり、現地にもっとお金が落ち、地元の商店や小売がさらに潤う事になるのではないかと考えています。
 
ー 荷物を持ち移動する必要が無いといった未来は何年後に実現されると考えていますか



 実はすでに、オーストラリアではアマデウスでソリューション展開を始めています。街なかに設置できる「ポップアップ・キオスク」というソリューションで、設置場所は例えばショッピングセンターの中、大きなコンサート会場などです。その場でチェックインも荷物の預けも済ませて、人は身軽なまま、時間になったら空港に向かえます。仕組みはもう出来上がっています。
 
ー アマデウスのスタートアップに対する取り組みについて

 APACは、スタートアップが育つ土台ができている状態です。旅行に関するスタートアップの数が一番多いのは今はAPACです。本当に面白いアイディアがたくさんありますが、実現させていくには課題がたくさんあります。例えば大きな航空会社や旅行会社とのネットワーク作り。資金。わかりにくい旅行業の仕組みへの参入。あるいは自国から海外展開への障壁。これらに対しアマデウスは、それぞれのスタートアップに合わせた支援を提供しています。
 スタートアップ企業が非常に独創的で魅力あるソリューションを作っても、それが世に広く知られない限りはやはり成功しづらいので、それを支えるプログラムです。



 アマデウスのスタートアッププログラムを通じて、すでに大きくなった会社もあります。きっと皆様がご存知の会社もあります。これに関しても後日お伝えできればと思っております。
 様々なスタートアップとお会いするのですが、「思ったより旅行業は複雑ですね」というフィードバックをよく受けます。複雑な旅行業にどうやったらスムーズに参入できるか、収益を作って事業として大きくするにはどうしたらよいか、といった悩みがありましたら、ぜひアマデウスのスタートアッププログラムをご検討ください。
 
 
== 取材を終えて
 アマデウス・ジャパンの加藤さん、長時間の取材に応じていただき本当にありがとうございました。
アマデウスのソリューションやスマートシティと沖縄の観光と未来についてとても心強いお話をお伺いすることができました。
 
 2月5日のスペシャルセミナーでは、アマデウスの考えるスマート・ツーリズム、スタートアップの取り組みについて様々な事例を交えてのお話となる予定です。
ResorTech Okinawaの詳細はこちら:https://www.resortech.okinawa/
 
ご来場お待ちしております。

□■スペシャルセミナー■□————————
講演日程:2020年2月5日(11:00~12:00)
テーマ:「アマデウスが考える未来のスマート・ツーリズム、そしてスタートアップへの取り組み」
都市化とオーバーツーリズムが世界規模で課題となる中、快適でスマートなトラベルエクスペリエンスやエコシステムとは何でしょうか。最先端のテクロノジーを提供しているアマデウスのプロジェクト事例に加え、未来の旅行を形作る担い手となるスタートアップのサポートプログラムをご紹介します。

写真:加藤 氏

講師: 株式会社アマデウス・ジャパン オンライントラベル部門 ディレクター  加藤 祥子氏
 
登壇者プロフィール:
日系旅行会社、外資系OTA、アメリカ通信社等を経てアマデウスに入社。ビジネスデベロップメント業務にて新規事業立案に携わり2018年より現職。日本のオンライン旅行業の未来に向けた提言とソリューションを提供している。

企業概要:



アマデウスは欧州4航空会社の共同出資により、中立的な旅行予約システムとして1987年誕生。
現在「旅行コンテンツ流通」「エアラインITソリューション」「ホテル向けソリューション」「空港ITやスタートアップなどのニュービジネス」という4つの中核事業をもち、従業員は19,000人以上。旅行コンテンツ流通を支える世界最大手の旅行関連ITソリューションプロバイダーです。
 

ー 世界最大級のイベントが沖縄で開催
 2020年10月には世界最大級の旅の祭典「ツーリズムEXPOジャパン2020」沖縄が開催されます。総合観光イベントとして、さまざまな産業が「観光」を軸に集結! 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会で世界の注目が日本に集まる中、世界・日本の観光関連産業が沖縄に集まります。
 ツーリズムEXPOジャパンは通常、毎年東京にて開催されていましたが東京オリンピックの関係で2019年は大阪、そして2020年は沖縄で開催されることになりました。そして10月のイベント本番を前に、2020年2月にプレ開催としてResorTech Okinawa - おきなわお国際IT見本市 -(リゾテック・オキナワ)が開催される運びとなりました。



リゾテック・オキナワは、観光・農業・水産業・小売・飲食・製造・医療など産業全体と、地域に暮らす人々の生活を豊かにするために活用可能な、幅広いテクノロジーのショーケースを目指します。また、本イベントと連動して、IT企業及びスタートアップ企業にイノベーション創造機会と実証フィールドを提供することで、沖縄発のイノベーション・新ビジネスの創出を促進して参ります。
 
 Okinawa Startup Festa(沖縄スタートアップフェスタ)も同時開催。
ResorTech Okinawaと合わせ、新たなビジネスマッチングの機会をご提供いたします。沖縄の観光業に従事、ご興味のある方のご参加お待ちしています。
 
※ツーリズムEXPOジャパン:世界100ヵ国以上の国と地域、日本全国の観光地が集結する、年に一度の世界最大級の旅の祭典。 2020年で7回目を迎えます。
※ResorTech Okinawa おきなわ国際IT見本市は、「リゾート」×「IT」をコンセプトに、観光産業と情報通信関連産業の活力を成長のエンジンとして、全産業の発展と豊かな地域社会の実現を目的として開催します。

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沖縄ビジネス・マッチングサイト 「インダストリンク

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取材協力:
株式会社アマデウス・ジャパン
 
※スマートシティとは?:IT、IoT、AIなどの先端技術により街全体のインフラや環境、サービス全般の最適化、質の向上を効率的に管理する都市のこと。)
 
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ライター:カシマユウジ
画像提供:株式会社アマデウス・ジャパン
※この記事の内容は2020年1月8日に行われた取材時の情報です。