“モビリティ・テクノロジー” 県内実証実験事例(北谷町美浜自動走行カート)

最終更新日:2019年12月20日

“モビリティ・テクノロジー”
県内実証実験事例(北谷町美浜自動走行カート)

先端技術! 自動運転の公道実証実験が北谷町(沖縄県)で実施されていて一般の方でも体験できるのはご存知ですか?



皆さま、こんにちは。今回のインダストリンク記事では、話題の先端技術、モビリティー・テクノロジーの1つである「自動走行車両」についての取材記事となります。ぜひ、先端技術をもっと身近な存在として感じていただければと思います。簡単にまとめましたので最後までご覧いただけると幸いです。

ー 近未来の技術「自動走行車両」の実証実験が沖縄で
近未来の技術として、たびたび話題にあがる自動走行運転車両。実は、その実証実験が北谷町美浜(沖縄県中頭郡)で行われています。アメリカンビレッジに行ったことがある方なら目にしたことがあるかもしれません。この、窓もドアもない電動カート「美浜シャトルカート」が、実は自動走行運転車両だったのです。



今回は、美浜シャトルカートの運行会社である北谷タウンマネジメント&モビリティサービス合同会社社長の宮城匠さん、ディレクターの池宮あやのさんに詳しいお話を伺うことができました。

写真:北谷タウンマネジメント&モビリティサービス合同会社 池宮さん(左)と宮城さん(右)

ー なぜ北谷町で実験が行われているのか
ラストマイル(駅やバス停から自宅等、目的地までのこと。)の部分を自動走行でやりましょう。と、いう事業が4年前に経済産業省、国土交通省の共同事業で始まり、実証実験をさせてもらう地域の公募がありました。全国30数地域からの応募があり、そこから3つの地域が全国で選定され、その中の1つがここ北谷町でした。北谷町の他には、福井県永平寺町、石川県輪島市が選定されました。
 
本来のラストマイルの意味合いとは異なりますが、観光客を中心とした、西海岸のリゾートエリアでの移動を、自動運転で行うのは面白いのではないか。ということを北谷町は考え、手を上げて選定された流れになります。

ー 実証実験の事業概要について
経済産業省と国土交通省から委託をされ、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以後「産総研」)が実施主体として行っている。産総研が車両の開発を行い、実際に車両を地域で走らせてみて、どういった受容性があるのか等の調査を地域の運行会社にお願いする。その運行会社としての立場が北谷タウンマネジメント&モビリティサービス合同会社です。



現段階で、最終的に国が目指していることをお伝えすると、自動走行にはレベル0からレベル5まであって、2020年にレベル3を実現したい。技術的な話ではなく、実際にこの技術を使って地域で実装され、サービスを提供していくという絵姿を2020年には見せたいという話で、2020年に向けてレベル3(レベル3 + 遠隔操縦※後述)の社会実装を国及び産総研が取り組んでいるという状況です。2019年12月現段階で美浜シャトルカートは「レベル2」となっています。





ー 美浜シャトルカートは、どのような自動走行の技術が使用されているか

ゴルフ場の自動で走るカートはご存知でしょうか。ボタンを押すと目的地まで走るという。昔ながらの技術で「電磁誘導線」という技術が、美浜シャトルカートには使用されています。電磁誘導線が、道に埋め込まれています。埋め込まれている線の上をなぞる形で車両が走って行きます。途中にRFID(radio frequency identifier)という名前のタグがあり、それが「ここではスピードを落としなさい、止まりなさい、という指示を出し、それにより車の挙動が変化するということで走っています。

写真:アスファルトに埋め込まれている電磁誘導線

産総研の加藤 晋先生の言葉を借りると「正直、新しい技術ではない。もっと言えば枯れた技術」と、加藤先生ご自身もおっしゃっている。しかし、なぜ枯れた技術が良いのかというと、昔から開発していて、ゴルフ場を含めて実績が豊富なため。ある種、問題は出尽くしていて、技術としては完成されているということ。いざ社会実装するにはこういった安定した技術でなければだめだろうということです。

きつい言葉ですが、「ただのゴルフカートでしょ」と、言う方もいらっしゃいます。しかし、国および産総研としては、安定した技術でなければ実装はできません。

写真:車道に埋め込まれている電磁誘導線(中央の黒線)とシャトルカート

今でいうGPSやLiDAR(ライダー)など、線路の上を伝って走るのではなく、自由自在に動けるものというのはまだもう少し未来の話になります。国として、2020年に実装するという目標を決めている以上、電磁誘導線方式が良い。ということで北谷町で実証実験を行っています。

ー 「サービス・カー」と「オーナー・カー」
移動の車両には「オーナー・カー」と「サービス・カー」という考えがあります。「オーナー・カー」とは文字通り、大手自動車メーカーなどの車を個人で購入して、自分で運転すること。オーナー・カーの自動走行というものは基本的には、運転支援システムがドライバーの疲労を軽減したり、安全運転の手助けをするというのが現状。バスなどの、お客様を載せて運ぶことが目的のサービス・カーとオーナー・カーとでは、自動走行の進化の過程はきっと違うと考えています。
美浜シャトルカートはサービス・カーにあたります。



正直、電磁誘導線の上を走るものを自動走行と言われて、なかなか、これが最先端とは思えないというご意見をいただくこともあります。
一般的に自動運転と聞いて皆様が想像するのは、オーナー・カーのことです。オーナー・カーというものは、やはり個人が様々な場所を走らせるということが前提なので、条件の縛りが厳しいような電磁誘導線を使用することは無いでしょう。

電磁誘導線の使用に多少ご不満もあるかもしれません。オーナー・カーでは、決まった経路を電磁誘導線で走るというのはありえないわけです。しかし、それはやはり、サービス・カーだから。最先端の技術では無いかもしれないが安定した状態で走らせることが可能となる。なので、サービス・カーというのはこの方針で行くんだ。と、いうことが国の方針です。

国が自動走行をやる理由は公共交通(サービス・カー)。例えば北谷であれば現在、北谷町コミュニティバス(C-BUS)を使って地域の移動のサービスの提供をしている。行政はそのようなサービスカーの事を考えているのであって、さらに高度な技術が必要となり用途も異なるオーナー・カーの自動走行のことは、自動車メーカーそれぞれで考えてください。と、いうことになるのではないかと個人(宮城さん)的には考えています。

ー安全性と責任について
先程、2020年レベル3を目指していると言いましたが、レベル3というのは基本的に運行責任はシステムが負う。もし万が一事故が起こった場合はシステムが悪いと。ただ、それは「ある環境のもとで」のことです。そのある環境の代表例は「高速道路」です。ある環境のもとでは、システムが責任を負います。ただ、やはり万が一の時はシステムが運転の主導権を運転手へ渡し運転をする。基本はシステムが運転をするが緊急時には運転者が操縦をするかたちになります。

写真:障害物(工事車両)を避ける際はドライバーによるマニュアル運転に切り替わる

テレビ等で自動運転の話が出る時に、やはり話題になるのが、自動走行時の事故についてですが、実は「完全にシステムが悪い」と、なるのはレベル4からです。レベル4は、ある限られた領域で何かが起こった場合は、システムの問題になります。

システムが全責任を持つ条件は最初から決められていて、その条件の中で万が一が起こった場合は、それはシステムが悪いと言うことになる。ただ、システムが全部面倒を見ていない場面で起こったトラブルは運転者の責任となります。

レベル3は、いつ何時システムが難しいですと放り投げても良いので、人が常時スタンバイしていないといけない。人の責任がかなりある状態です。世の中の人が夢見ていることが実現されるのはレベル4以上になってからです。

ー「レベル3 + 車内無人遠隔操作」
4年前に経済産業省、国土交通省がこの自動走行実証の地域を公募した時のお題目が、人件費が要らなくなることで、本来事業化できないものが事業化ができるということになる。それを目指しませんかということでした。

現在の美浜シャトルカートのレベル2は基本的に責任は運転者。緊急時には人がカバーしなければならないため、車両1台につき1人、緊急時のために保安員が乗車します。

写真:ドライバー(保安員)は自動運転の際、操縦はしていないが常に周囲に注意を向けている状態

人が乗るのであれば結局、サービス・カーの話をすると、運行のコストが変わりません。そうなると、移動サービスの事業性が担保できなく、赤字になります。そこで考えられたものが、管制室に設置されているハンドルとペダルです。

写真:管制室に設置されている遠隔操作を行うハンドルとペダル

車内には人がいない状態。管制室から遠隔で1人の人間がモニターを見て、1台の車を監視できるようになっています。

写真:2台の車両の様子をモニターを使って常時確認

基本はシステムが走ってくれることが大前提で、システムが運転している車が電磁誘導線のコースをぐるぐると回ります。ただ、何かイレギュラー(障害物があり電磁誘導線を塞いでいるなど)があり、車が止まった時には、管制室にてマニュアル操作に切り替え、管制室から遠隔操縦を行い、車を正常な走行に戻し、また自動走行モードに切り替える。と、いうことも現在検証中です。

基本的に、「万が一」は万が一しかないので、遠隔操縦システムを用いることで、1人で2台、3台と面倒をみることが将来的には可能になります。

自動走行と遠隔操縦は全く別の技術です。レベル3の自動走行と遠隔操縦はドライバーが車内にいるのか、別室にいるのかという違いはあるが、運転手がいるということに変わりはありません。1対1だと全くコスト的にメリットはありませんが、これが1対2,1対3となるにつれ、コストが下がります。2020年には「レベル3 + 車内無人遠隔操縦」を北谷町と永平寺で実現したいということで今産総研にて技術開発を進めています。早ければ年度内(2020年3月までに)に車内無人遠隔操縦の公道実証実験が行えるかもしれません。

ー自動走行に含まれる「運転支援システム」が誤解を生んでいる?
「自動走行」と、ひとくくりに全てを含めて言っていることが、皆様に誤解を与えているのかもしれません。自動走行といえば、お酒を飲んで、お家に帰る時にボタンを押せば勝手に家まで帰ってくれる。と、言うことを夢見ていますが、結局レベル1~2はあくまでもまだ「運転支援システム」です。しかし、運転支援システムの部分まで自動走行、自動運転と言っている現状というのが、一般の方々を誤解させていると言いますか……。

写真:インタビューを受ける池宮さん(左)と宮城さん(右)。右手前はIndustlinkスタッフ。

いつか実現するレベル4やレベル5はお互いが生きている間に実現しますかね?というレベルかもしれない。そのレベルを想像してレベル3を見ると、がっかり感があるかもしれません。しかし、現状の実現可能なレベルは、レベル3の自動走行となります。レベル4以上は、まだまだ先の未来のお話です。

ー2020年には新たな技術が実証実験に追加される
現在の美浜シャトルカートは、人や犬などが飛び出してきたときにはシステムが判断して止まります。ステレオカメラというものが車の前についています。

写真:車両正面のステレオカメラ(両ヘッドライトの内側)

このステレオカメラが、通常その場所に無いものを感知するとブレーキをかける。電磁誘導線の上をずっと走ります。基本的に一定路線を走るので、ガードレールがありますよ、などの元々の障害物を映像として読み込ませています。この映像はもともとあるものなので障害物では有りません。と、無視をする。自分が覚えている景色以外のものが映像に入ってくると自動で止まるようになっています。

デポアイランド内は車道を縦横無尽に人が行き来しています。そういった場所でもスムーズに走行できるように、今後、AIのカメラがこの歩行者は道路を渡ろうとしているのか、これはただスマホを見ていて道路を渡る気が無い人なのか。と、いうふうに周辺の人がこの後、車両の安全に問題のある行動をするのかどうなのかをAIが判断しながら、車が最適なスピードで走っていけるようにする。と、産総研の加藤先生はおっしゃっていたので、2020年にそのAI技術を搭載した車両がお披露目されるかもしれません。

ー実際の利用客の声や客層について
2019年7月から12月までで利用者数のトータルが1万人を超えました。1日平均100人ほどにご利用いただいています。ホテル利用者が6割、日帰り観光客が2割、それ以外の北谷町民や従業員移動などが2割程度なので、観光客のご利用が8割から9割となっています。

お客様からのご意見についてですが、お客様は乗車の際に、カートが自動運転なのか気にせずに、ただの移動手段としてご利用されていますので、自動運転の技術についての話はありません。一番多いご意見は、やはりコースに関してです。「観覧車まで行きたい。」「サンセットビーチまで行きたい。」など。他には「窓がなくて乗っていて気持ちが良い」「どこに美味しいレストランがある?」「子供が喜ぶ」などの意見があげられます。

写真:ドライバーは利用者の意見や障害物の報告などを行うためにメモを取っている

自動走行ですが、実際には保安員も運転席にいるので、実質ドライバーです。実際に乗るお客様には、車両が自動走行なのかは、判らないことですし、関係のないことです

写真:デポアイランド内の停留所で実際にお客様を乗せている様子。

利用者層については、土地柄、日本人以外の方々のご利用も非常に多いです。大体ですが、3割から4割が海外の方の利用というイメージです。域内のホテルに泊まっている方の利用が6割。そのホテルのインバウンド比率が半数を超えているので、そこを踏まえると、美浜シャトルカート利用者の海外の方の比率はその程度でしょう。実際の肌感覚的にもその程度に感じています。

ー今後の課題と実現目標
事業終了後の美浜シャトルカートの継続運行についてはまだ未定な部分が多いのが現状です。継続はさせる予定となっていますが、その継続の方法(年間運行費用等)まではまだ見えていない状況です。今後は一部北谷町で負担いただけるものなのか、周辺に立地するホテルの負担になるのか。運行費用の負担割合はどの程度なのか。今後の課題としてその部分も含め、実証実験を進めています。

カートの速度は現在12km/h程度。車両が、ドアもなければシートベルトもない構造なので、そういう作りの車が走れる最高速度が20km/h未満となっています。電磁誘導線の上を走らせると19km/hですとまだ安定しないので、安定する12km/hで現在は設定していますが、今後19km/h程度で走っても安定するように改良をしたいという話が上がっています。

ー取材を終えて・筆者のまとめ
取材時に、筆者は実際に自動走行車両への試乗体験や、実際に利用している方々の様子を観察してみました。北谷タウンマネジメント&モビリティサービス合同会社 宮城さんの仰るとおり、自動運転なのか、普通の無料シャトルバスなのか、利用者は気にならない(気づかない、気にしていない)というのが、正直なところでした。それは、運転席に緊急時などのためのドライバー(保安員)がいるから。と、いうところも大きいと感じます。

写真:運転席には常に保安員が座っているため、自動走行だとは気づきません

また、利用者にとっては自動運転でも、ドライバーによる運転でも、無料で移動できればそれで良い。と、いうことも実際に乗車して実感できました。

通常の無料シャトルバスだと、ただの移動手段なので、何も記憶に残らない。しかし、未来の技術「自動運転」の実証実験に参加した、先端技術にふれた、という体験は、旅行者に限らず、利用者の記憶に残るイベントになるのではないでしょうか。

旅の思い出の1つに自動運転。記憶に残るおもてなしができるということも、今後の自動運転がもたらすメリットなのかもしれません。もちろん、自動運転が一般的になるまではですが……。しかし、一般的に珍しくない技術として浸透してからも、もちろん様々なメリットは続きます。

無人化によるコストの削減、低予算での継続運行と町の観光資源、運転や事故を気にすることなく楽しめる町。自動運転で次世代の明るい街が、すぐ目の前まできています。

実証実験は20年度(2021年3月末)まで続き、その後は民間での運行になる予定とのことです。皆様も、実験期間中に自動走行車両を体験しに行ってみてはいかがでしょうか。

写真:4台中1台のみのイエローラッピング車両は見れたらラッキー。ぜひ見つけて乗車してください。

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取材協力:
北谷タウンマネジメント&モビリティサービス合同会社
美浜シャトルカート
 
※北谷町は国土交通省のスマートシティモデル事業のスマートシティ推進パートナーにも選定されています。(スマートシティとは?:IT、IoT、AIなどの先端技術により街全体のインフラや環境、サービス全般の最適化、質の向上を効率的に管理する都市のこと。)

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ライター/カメラマン:カシマユウジ
※この記事の内容は2019年12月6日に行われた取材時の情報です。