「同じ数字」が部署の壁を壊した。DXの主役はシステムではなく人 ~株式会社エフ琉球~
最終更新日:2026年11月04日
「同じ数字」が部署の壁を壊した。DXの主役はシステムではなく人。

健康食品・サプリメントを企画・製造し、11のECモールで約400商品を販売する株式会社エフ琉球。かつては部署ごとに見ている数字が違い、在庫の数字をめぐっては、部署間で認識のずれが生じることも少なくありませんでした。販売・製造・在庫を一つのデータ基盤でつないだ結果、7~8割だった販売数の精度は、ほぼ100%に。急な追加生産はほぼなくなり、土曜日の完全休業も実現しました。値引き原資の値引きクーポンを大きく減らしながらも、実質的な売上は伸びています。「数字で話す会社へ」を掲げた代表取締役社長の長濱諒さんと、現場でシステムを育ててきた業務改革部・製造部の皆さんに、変化の舞台裏を聞きました。
感覚で仕入れ、値引きで売る。部署ごとに見る数字の「軸」が違っていた

▲ 株式会社エフ琉球 代表取締役社長 長濱さん
エフ琉球は、サプリメントなどを自社で企画・製造し、楽天市場やAmazon等11のモールで販売しています。事業は拡大しましたが、その経営は長く「感覚」と「情熱」に支えられていたといいます。
長濱さん
「先代の父は、本当にパッションで話す人でした。計画的な発注ではなく、『とりあえずこれくらい持っておかないと』という感覚で原料を一気に仕入れていました。実績を見るとそれほど売れていない。賞味期限が近づいてから『どう売りさばくか』を考える。そんなことをずっと続けていたのです」
売れていると思い込んで大量に仕入れ、在庫を減らすために値引きする。値引きで売れるので、また「売れた」と思い込む。長濱さんはこれを「負のスパイラル」と表現します。
部署の間にも壁がありました。販売はEC事業部が各モールの管理画面で、製造と在庫は各部署が別々のExcelやシステムで管理。商品コードもモールごとにばらばらでした。製造部の在庫表では原料在庫しか見られず、EC事業部は製品在庫しか見ていませんでした。
在庫が切れそうになると、長濱さん自らEC事業部に出向き、「販売を止めてください」と伝えていたといいます。400商品×11モール、実質4,000通りを超える組み合わせについても、「正直、把握していなかった」と振り返ります。
こうした状況を変えようと、長濱さんが利益を重視する経営を少しずつ進め始めたのは、取締役だった5年ほど前。代表に就いてからは、各部署に数字の意識を持たせることに力を注いできました。その象徴が、モールで発行する値引きクーポンの削減です。
長濱さん
「クーポンは実質的な売上ではなく、売上高を高く見せているだけなのです。決算書の数字は減っても、実際にお金が動いている額は増えている。だから、そこは全然怖くなかったです」
ただし、値引きを減らして単価を上げることには不安もありました。「安さ」を喜んでくれていたお客さまに、認めてもらえるのか。そして何より、全社が同じ数字を見られなければ、この方針は続きません。
補助金を「チャンス」に。最初の壁は、注文と出荷で単位が違う数字の突き合わせ
そこで同社は、令和7年度(2026年度)沖縄DX推進支援事業補助金を活用しました。モールごとにばらばらだった商品コードを統一し、販売・製造・在庫のデータを一つに集約したのです。長濱さんは「補助金に採択されてもされなくても、絶対にやっていた」と言い切ります。そのうえで、「期限があるのでやるタイミングが早まり、ものすごいスピード感が出た」と効果を語りました。
実務を担ったのは同社の業務改革部のお二人です。

▲ 左から業務改革部 平山さん、川平さん、製造部 新城さん
川平 喜昭さん(業務改革部)
「任されたときは、チャンスだと思いました。在庫を正確に把握し、受発注をスムーズにする。ずっと取りかからなければいけなかった課題を、これをきっかけにちゃんとシステム化できると思ったのです」
苦労したのは、システム完成後のデータの整合性の確認でした。同社では、例えば1か月分入りの商品が3個注文されると、3か月分入りの商品を1個にまとめて発送します。注文の数と出荷の数がそのまま一致しないため、データには換算の処理が必要でした。
平山 茂樹さん(業務改革部)
「営業や製造から『自分たちが把握している数と違う』と言われたときに、換算が正しく計算されているかを一つずつ追いかけました。最初のうちは、そこが結構大変でした」
ずれが見つかるたびに原因を確かめ、換算のルールを直していく。こうした地道な確認を積み重ねることで、どの部署も同じ数字を前提に話せる土台が、少しずつ整っていきました。
自動化より見える化。7~8割の精度が「ほぼ100%」になり、急な追加生産がなくなった
システムづくりでは、「自動化」よりも「見える化」を優先しました。そこには長濱さんの持論があります。
長濱さん
「人は結果さえ見せれば、おのずと動いてくれるのです。人が判断できないのに自動化しても意味がない。最後は全部人に返ってくるので、まずは数字を見せて、自分たちで考えてもらう。そのためには見える化しかないと思ったのです。」
定着のために、長濱さんは「旧システムは消す」と宣言しました。ただ、定着の決め手になったのは、部署ごとに違っていた数字の「軸」がそろい、意見がぶつからなくなったことだといいます。変化を最も実感しているのが、製造部です。
新城 康平さん(製造部)
「以前のシステムの販売数は、精度が7~8割ほどだったと思います。それがほぼ100%になりました。正確な販売数が分かるので、正確な発注数、正確な製造数を出せるようになりました。急な追加生産は、ほぼなくなりました」
販売数が分かれば、必要な原料や資材の量も分かります。製品と原料の在庫を120~180日分持つという営業・購買との取り決めに沿って、予測も立てられるようになりました。以前は旧システムと在庫管理の画面を行き来しながら考えていたものが、今は一つの画面で見られます。
使いながら育てるシステム。部長同士が事前に話し、社長は「イエスかノー」
システムは完成して終わりではありません。最初は「こんなものがあれば」というざっくりした形で作り、製造や営業の声を業務改革部が聞き取って、ベンダーと相談しながら機能を足してきました。ベンダーとのやり取りを重ねる中で、要件の伝え方も磨かれてきました。
平山さん
「『だいたいこんな感じ』と伝えても、システムを作る側からは『どこの数字ですか、どこから持ってきますか』と聞かれます。だから現場に話を聞くときにも、使う人がどの画面のどの数字をイメージしているのかを、ずれなくつかむように意識しています」
同じ軸で数字を見られるようになり、部署を越えた会話は大きく増えました。今は、各部署の部長同士が毎週話し合い、在庫や販売施策を事前に調整しています。
長濱さん
「以前は私が問題を定義して指示していました。今は『こういう数字なので、こうしましょうか』と相談が来て、私はイエスかノーで答えるだけ。細かいことは現場に任せています」
数字を突きつめる中で、1日の生産量も増加しました。「何もしていないとも言える。ただ数字を突きつめたら、できてしまった」と長濱さんは笑います。急な追加生産が減ったこともあり、2026年1月からは土曜日の完全休業も実現しました。
データが見えるようになって、新たな課題も見えてきました。新規のお客さまは大きく増えているのに、新規のお客さまの増え方に比べると、売上の伸びはまだ小さい。そこで今は、お客さまの離脱率を見える化し、リピートにつなげる取り組みを進めています。GMP(製造管理・品質管理の基準)に対応した在庫管理の仕組みづくりも始まっています。

▲Before/Afterのイメージイラスト図
「社長が本気でなければDXでは変わらない」。成果を社員に返し、次は祝日休み
土曜日の完全休業には、家庭を持つ社員が休みやすく、採用でも選ばれる会社にしたいという長濱さんの思いがありました。休みを増やしても給与は減らさず、上がった生産性の分は賞与に回しています。上半期の賞与の総額は、従来の倍になりました。
長濱さん
「倍になったといっても、人数で割ればまだ小さな金額です。これをどんどん上げていくのがこれからの課題です」
次の目標は、2027年4月からの祝日の休みです。社員は喜んでいる一方、部長たちは「生産性を保てるのか」と気を引き締めているそうです。
最後に、これからDXに取り組む事業者へのメッセージを聞きました。

「DXを進めたから会社が変わる、利益が残る、ということは絶対にないと思っています。DXは、人が楽になるためのもの。まずは何をしたいのかをはっきりさせることです。先日、韓国のAIの展示会で『社長が一番DXに本気でないと変わらない』と言われて、本当にその通りだと思いました。利益を残せる会社になるために一番大事なのは、社長が本気でDXに取り組むことです」

▲ 各ECモールで受賞を重ねてきた実績
「同じ数字で話す」。言葉にすればシンプルですが、エフ琉球の歩みは、それが部署の壁を越えた会話を生み、働き方や商品づくりへの意識まで変えていくことを教えてくれます。DXの主役はシステムではなく、数字を手にして自ら考え、動く人。そして、その変化を本気で後押しする経営者の存在です。
「何から始めればいいのか分からない」という事業者にとっても、まずは自社の数字を同じ物差しでそろえることが、確かな第一歩になるはずです。エフ琉球のこれからの挑戦にも、注目していきたいと思います。
(一財)沖縄ITイノベーション戦略センター シニアコーディネーター 山城 絵里香
※特集記事の内容は2026年10月取材時の情報です。
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