「DXはITの話ではない。現場の“課題”に向き合った結果だった」 株式会社崎浜商店 取締役常務・崎浜隆太氏に聞く、現場主導DX

最終更新日:2026年01月28日

「DXはITの話ではない。現場の“課題”に向き合った結果だった」
株式会社崎浜商店 取締役常務・取締役常務・崎浜隆太氏に聞く、現場主導DX

業務用食品卸売として地域を支えてきた株式会社崎浜商店。事業が成長する一方で、現場は電話やFAXによるアナログな受注業務の限界に達していました。「このままでは続けられなくなる」という強い危機感から始まった同社のDX(デジタルトランスフォーメーション)は、決してIT導入そのものが目的ではありませんでした。  

 本記事では、補助金をDXに本格的に取り組むための後押しとして活用し、現場の課題を解決することで変化を遂げた同社の軌跡を、常務取締役の崎浜隆太氏へのインタビューを通じて紐解いていきます。  

株式会社崎浜商店 取締役常務 崎浜隆太氏

――本日はありがとうございます。まず、崎浜商店の事業概要と、DXに取り組むことになった背景から伺えますか。 

弊社は創業以来、業務用食品を中心に、ホテルや飲食店向けの卸売事業を行ってきました。時代の変化に合わせて取引先も増え、扱う商品やサービスも広がってきましたが、実は業務のやり方自体は、長い間ほとんど変わっていなかったんです。
 

――事業が成長する一方で、業務はアナログなままだった。 

そうですね。特に受注業務です。 
電話とFAXが中心で、そこに取引先ごとの独自システムによるネット注文も加わっていました。注文の入り口がどんどん増えていく一方で、それを処理する現場のやり方は変えられていなかった。
  

――現場の負担は、かなり大きかったのでは。 

正直、限界に近かったと思います。 
注文が集中する日は、電話を取りながら伝票を入力し、同時にFAXを確認する。少し手が止まると、すぐに業務が滞る。常に複数の作業を並行して進めないと回らない状態でした。 

 

「人を増やせば解決する」段階は、もう過ぎていた

――人手を増やすという選択肢はなかったのでしょうか。 

人手を増やそうと考えたこともありましたが、ただ、それは根本的な解決にならないと感じていました。業務フローが変わらなければ、いずれ同じ問題にぶつかります。それどころか、教育コストや属人化のリスクも増える。 

 

――働き方そのものを変える必要があった。 

はい。「誰かが頑張れば何とかなる」状態を続けるのは、もう無理だと。 
ミスのリスクも高いですし、精神的な負担も大きい。現場が疲弊しているのを見て、このままではいけないと強く思いました。 

 

DXは「やりたい」ではなく、「やらなければならない」ものだった 

――DXを意識し始めたきっかけは何だったのでしょうか。 

最初から「DXをやろう」と思っていたわけではありません。 
「このままでは業務が回らなくなる」「将来、事業を続けられなくなるかもしれない」という危機感が先にありました。 
 

――DX推進を決断する際、社内ではどのような議論がありましたか。 

実は、社内で長時間の議論を重ねたという感じではないんです。 

現場の社員が、強い課題意識を持っていて、まずは、その社員が、自分で情報を集めました。DXとは何か、どんな手段があるのか、補助金制度は使えるのか、を整理した上で、彼が私や社長に説明しました。 
 

――不安や戸惑いはありませんでしたか。 

正直、「本当にできるのか」という不安はありましたし、周囲から見れば、彼が少し突っ走っているように見えたかもしれません。ただ、それでも「やらない選択肢はない」と思っていました。 



 

補助金はDXに本格的に取り組むための後押し

――沖縄DX促進支援事業補助金の存在は、大きかったですか。 

非常に大きかったです。 
自社だけで全てを負担するとなると、どうしても慎重になります。でも、補助金があることで、「本気で挑戦していいんだ」と背中を押してもらえました。 
 

――申請プロセスにも、かなり力を入れられていました。 

はい。申請を進めた社員は、名護から那覇まで何度も足を運びました。 

自分たちの課題をしっかりと伝え、よい良いアドバイスをもらいながら、申請内容をブラッシュアップできていたと思います。 
 

――申請書づくりで意識したことは。 

「きれいな言葉」より、「現場の言葉」です。 
何が苦しいのか、何を変えたいのか。その現場の生々しさを、できるだけ自分たちの言葉で表現しました。 

 

RPA・請求書配信・BIツール――選定の軸は「現場の優先順位」 

――補助事業で導入した3つのツールについて、それぞれ選定理由を教えてください。 

まずRPAです。 
受注業務の中で、一番負担が大きく、かつ定型化できる部分だったので、「ここを自動化しない理由はない」と思いました。 


 

――RPA化の対象業務は、どのように決めましたか。 

「一番時間がかかっていて、一番ミスが起きやすいところ」です。 
受注入力や配送手配など、人がやらなくてもいい作業を優先しました。 
 

――請求書配信サービスについては。 

こちらは経理部門の負担軽減が目的です。 
紙の請求書は、印刷、封入、郵送と、手間もコストもかかる。そこをデジタル化することで、バックオフィス全体を楽にしたいと考えました。 
 

――BIツールは、途中から具体化した印象があります。 

そうですね。最初から完成形が見えていたわけではありません。 
ただ、「データを見ないまま判断している」ことへの違和感はありました。まずは売上をリアルタイムに近い形で見られるようにする。そこから始めました。 



 

ITベンダーは「発注先」ではなく「伴走者」 

――ITベンダー、沖縄日立ネットワークシステムズとの連携はいかがでしたか。 

非常に心強かったです。エンジニアさんは、一時期ほぼ毎日、弊社に出勤して弊社内で開発を行ってくれていました。開発作業をしながら、実際の現場作業や業務の流れを直接見て頂いていましたし、お互いに、何でも気軽に話ができる環境でした。そのため、ITベンダーさんから一方的に提案されるのではなく、私達の現場をよく知って頂いた上で、私達の現場に最適なシステムを開発して頂けたと思います。 
 

――社内体制として、DX推進委員会も設置されたそうですね。 

はい。現場、事務、経理など、部署横断でメンバーを集めました。 
定期的に集まって、「実際に使ってみてどうか」「困っている点は何か」を共有しています。 
 

――社員のデジタルスキル不足への対応は。 

最初から高いスキルを求めることはしませんでした。 
「完璧に理解してから使う」のではなく、「触りながら慣れる」。ベンダーのサポートも受けながら、少しずつ前に進めました。自分達の業務が楽になるツールを、実際の業務で使っていくことで、心理的な抵抗感もなく、スムーズに運用できていると思います。 



 

数字が見えると、会話が変わる 

――RPA導入の効果はいかがでしょう。 

伝票入力や配送手配にかかる時間は、体感でもかなり減りました。 
人的ミスも明らかに減っていますし、「常に追われている感じ」が薄れました。 
 

――請求書配信サービスの効果は。 

印刷・郵送の手間とコストが削減できました。 
取引先からの抵抗もありましたが、丁寧に説明し、少しずつ理解してもらいました。 
 

――BIツールによる変化は。 

一番大きいのは、会話の変化です。 
「なんとなく」ではなく、「数字を見ながら」話ができるようになりました。経営判断や営業戦略が、より具体的になってきていると思います。 
 

DXで一番大変だったこと 

――DX推進で最も苦労した点は何でしょうか。 

社外の調整ですね。 
特に請求書電子化は、取引先の理解を得るまで時間がかかりました。
 

――BIツールの活用で難しさはありませんでしたか。 

あります。分析は奥が深いです。 
当初は、「まずは売上を見る」ことを考えていましたが、利益も見えるようにしたり、配送ルートごとに分析できるようにして頂きました。また、私自身がBIツールを勉強して、自分でアップデートを重ねています。 

 

次のDX、そして「支援する側」へ 

――今後のDXの展望を教えてください。 

データ活用を、さらに進めたいですね。 
また、北部地域の企業や同業社へのRPA導入支援も考えています。自分たちが苦労した分、同じ悩みを持つ企業の力になれればと思っています。 



 

Industlink読者へのメッセージ 

――最後に、DXに踏み出せず悩んでいる企業へのメッセージを。 

課題を感じている企業は、チャンスです。他企業さんと話をしている中で、「現場の課題はありませんか?」と聞いても、「特にない。」とおっしゃる方がほとんどです。 
DXはITの話ではなく、「現場の課題と向き合うこと」。補助金やベンダーは、そのための手段です。まずは一歩踏み出してみてほしいですね。 

 

≪取材を振り返って:取材者コメント≫

現場の限界を直視し、現場の社員が自ら動いたことが、崎浜商店のDXを前に進めました。 
この取り組みは、特別な企業だけの話ではありません。 
沖縄の中小企業がDXに挑む際の、現実的で、再現性の高い一つの答えが、ここにあります。 

〈取材・執筆〉
(一財)沖縄ITイノベーション戦略センター プロジェクトマネージャー 金城 励
※特集記事の内容は2024年12月取材時の情報です。
 

 

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