観光と文化の配信先駆者たちが語る「沖縄のオンライン配信事情」

最終更新日:2022年01月05日

2020年からのコロナ禍によって、昨今オンライン配信の重要性がますます高まってきています。

我々もそろそろオンライン配信をはじめてみたいなぁ。
でも・・・
YouTube、Twitter、facebook、TikTokなど、いろんな種類があるようだけれど、配信プラットフォームは何が良いの?
どんなコンテンツに人気があるの?
配信する際の注意点や課題は何かあるのかな?
地元沖縄の配信事情も少し知っておきたいな。
etc…

初めての試みには当然、不安や疑問がありますよね。
そこで、少しでもオンライン配信に関する疑問や不安解消の手助けとなりますよう、沖縄県内でオンライン配信を活用されている先駆者の方々を取材させていただきました。
 

当特集では、2022年1月18日(火)開催予定の「そのイベントすべて配信(オンライン)で開催できます!」セミナーの基調講演にご登壇いただきます北中城村観光協会事務局長・又吉演氏、がらまんホールプロデューサー・小越友也氏、それぞれの立場からオンライン配信事情や配信をはじめる際のアドバイスなどを語っていただきました。
オンライン配信を活用されている先駆者の声から、何かしらのヒントが得られるかもしれません。ぜひ最後までご覧ください。


    
※「そのイベントすべて配信(オンライン)で開催できます!
セミナー当日は、又吉氏、小越氏への質問時間もそれぞれ設けております。
参加無料、会場とオンライン同時開催です。ぜひお気軽にご参加ください。

【目次】
  1. 1.オンライン配信のメリット
  2.  
  3. 2.北中城村観光協会 事務局長・又吉演氏が語るオンライン配信事情
  4.  「スタジオキタナカ」を知って欲しい! アツイ想いから配信をスタート
     視聴回数トップは人気タレントを配した短編映画『きたなかスケッチ』
     空手発祥の地・沖縄は「格ゲー」が盛ん。だからこそeスポーツ!
     スタジオを有する利点を活かし、北中城観光協会は配信事業も展開中
     これからオンライン配信をはじめてみたい方へのアドバイス
  5.  
  6. 3.がらまんホール プロデューサー・小越友也氏が語るオンライン配信事情
  7.  ソーシャルディスタンスを表した座席写真が話題に。SNSの影響力を実感
     コロナを機に配信開始。配信によって気付きがあり、意識が変化
     人気コンテンツは日本語字幕付き「沖縄芝居」と学べる「文化講座」
     公共施設からオンライン配信を行う際のチェックポイント
     公共施設からの配信はスマホでも可能?
     コンテンツの生配信の必要性を見極める。ライブ配信の課題と方法
     公共ホールの役割と目標。アート×最先端テクノロジーも視野のひとつ
     大切なのは、何がしたいのか? 配信の目的を明確に
  8.  
  9. 4.まとめ
  10.  沖縄のオンライン配信事情とこれからオンライン配信をはじめる方へのアドバイスのまとめ

1.オンライン配信のメリット

インターネットを通じて行うことから、「オンライン配信」は「ネット配信」、「Web配信」、「デジタル配信」とも呼ばれています。
オンライン配信を行うことで、遠方の方、離島の方、県外の方、外出が難しいご年配の方、小さなお子さまがいらっしゃるご家庭など、これまで直接会場にお越しになれなかった方の視聴参加が可能となります。
会場での開催と違い、人数を考慮する必要はありません。離島や僻地、小さな会場から日本全国へ、はたまた世界へと、多くの方に視聴・ご参加いただけ、オンライン配信を行うことで世間に知っていただく機会が格段に増え、コミュニケーションの質を高めることができます。
配信後は、保存して残しておくこともでき、あとから視聴することも可能です。

2.北中城村観光協会 事務局長・又吉演氏が語るオンライン配信事情


一般社団法人北中城村観光協会 https://kitapo.jp/
2016年8月、任意団体として北中城村観光協会設立。2017年9月、一般社団法人北中城村観光協会登記。2022年から「観光を通じた地域の発展」と「職員の幸せ」というミッションステートメントを掲げる。
貸スタジオ事業とコンテンツ制作・配信事業を行うYouTubeスタジオ「スタジオキタナカ」運営。
少数精鋭の職員は北中城村在住者にとどまらず沖縄県内外の出身者で構成されている。現在、係長以上の役職のヘアスタイルは金髪やブラウン等という自由でユニークな観光協会。
コロナ禍前の2019年4月から積極的にオンライン配信を開始。YouTube「ライカムチャンネル」は沖縄県内観光協会において登録者数上位を誇る人気チャンネルとなっている。

一般社団法人北中城村観光協会事務局長・又吉演(またよし・えん)氏
沖縄県那覇市出身。これまで、一般財団法人沖縄観光コンベンションビューローが運営するフィルムコミッション(※)「沖縄フィルムオフィス」、「一般社団法人今帰仁村観光協会」など18転職の経験を活かし、行政×映画×ITの3つの異種分野に精通。
今帰仁村観光協会では立ち上げ時から奮闘、初代会長・上間宏明(うえま・ひろあき)氏とともに観光の目玉として古宇利島の「ハートロック」をプロデュース。初年度は約250万円の補助金で又吉氏単独で始動するも、5年後にはスタッフ4~5名を抱え、売上1億円を達成した立役者。
2019年11月より、北中城村観光協会の金髪事務局長として当協会を牽引。

※フィルム・コミッション … 映画やテレビドラマ、CMなどのロケーション撮影を誘致し、屋外撮影がスムーズに行われるように支援する非営利組織。【参照】(株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」


事業担当「スタジオキタナカ」店長・福本偉予里(ふくもと・いより)氏
大阪府出身。大阪では建設関係のサラリーマン、沖縄移住後はカラオケ店店長を経験。北中城村屋宜原青年会メンバーとして北中城村観光協会へのボランティア協力を重ね、2019年11月から北中城村観光協会スタッフとなる。
趣味の機械いじりを活かし「スタジオキタナカ」店長として、撮影・編集・配信と多忙を極めている。


一般社団法人北中城村観光協会事務局長・又吉演氏(写真右)と「スタジオキタナカ」店長・福本偉予里氏
 
一般社団法人北中城村観光協会事務局長・又吉演氏、「スタジオキタナカ」店長・福本偉予里氏のおふたりにお話を伺いました。
<取材日:2021年12月8日> 

「スタジオキタナカ」を知って欲しい! アツイ想いから配信をスタート

― オンライン配信を始められた時期と経緯を教えてください。
当観光協会は、大型ショッピングモール『イオンモール沖縄ライカム』内に事務所とYouTubeスタジオ『スタジオキタナカ』を構えています。
YouTube「ライカムチャンネル」は2017年から開設していたのですが、より多くの方に「スタジオキタナカ」を知っていただきたく、2019年4月28日から本格的にオンライン配信をスタートしました。(又吉氏)

ゲーム配信は、配信コンテンツのなかでも人気が高く、コミュニケーションが活発です。
ですから、まずは「マリオカート」を毎日実況プレイすることからはじめました。(福本氏)
 

― それは、業務中に「マリオカート」を、ゲームをするということでしょうか?
はい。そうです。(福本氏)

業務の一環ですので、業務時間中にマリオカートのプレイ配信をしてもらいました。残業になる場合は残業手当もきちんと支給しましたよ。(又吉氏)

現在は、ゲーム配信専用チャンネル「スタキタGAMES」を作り、ゲーム配信は「スタキタGAMES」で行っています。(福本氏)

視聴回数トップは人気タレントを配した短編映画『きたなかスケッチ』

― 北中城観光協会さんは、沖縄県内の観光協会さんのなかでもっとも配信本数が多いと伺っております。
年間で何本くらい配信されていますか?
2021年1月からのカウントで465本投稿しています。(福本氏)

「ライカムチャンネル」は現時点で610本あります。
そのうちの100本は、100日間で100本の動画を納品して報酬100万円という公募企画「キタナカ公式YouTuber」に制作していただきました。(又吉氏)

― 配信されているコンテンツから視聴回数トップ3を教えてください。
1位 … 北中城村観光協会製作映画『きたなかスケッチ』(約13万回再生)
2位 … iPhone 12 Pro Max おすすめケース!Apple純正レザーケースとウォレット(約2万回再生)
3位 … 【閲覧注意】沖縄でドライブレコーダーをつけなきゃいけない理由(約1.5万回再生)
 
1位の『きたなかスケッチ』は、北中城村の魅力を広く知っていただくために、地域発信型映画制作事業の企画コンペで制作した短編映画です。コロナのリモートワークで再生回数は更に伸び、チャンネル登録者数も増えました。
再生回数の多さは、仲宗根梨乃(なかそね・りの)さん、池間夏海(いけま・なつみ)さんといった魅力のある人気タレントを起用したキャスティングのためだと思います。(又吉氏)

2位は、公募企画「キタナカ公式YouTuber」が制作された動画です。様々な試行錯誤をしている中で作られた動画で、北中城とはまったく関係のない内容になっています(苦笑)。
2位と3位は、人気のiPhone、衝撃的な事故映像と一般的に興味を持たれる内容で、視聴回数は増えますが、チャンネル登録には繋がっていませんね。(又吉氏)

空手発祥の地・沖縄は「格ゲー」が盛ん。だからこそeスポーツ!

― とくに反響が大きかった企画を教えてください。
とくに反響が大きかったのは、沖縄県保健医療福祉事業団助成事業の一環として2021年10月に開催した『キタナカグスクeスポーツ選手権2021』です。
大会種目は「Virtua Fighter esports」、使用機種はPS4、会場は「スタジオキタナカ」ですが、もちろんオンライン参加も可能にしました。

沖縄は空手文化の影響なのか、「格ゲー(格闘技ゲーム)」がとても盛んなんです。
沖縄でeスポーツに強い「株式会社ザ・ウェーブ」さんの力を借りたこともあり、全国大会で優勝された方や上位入賞されるようなゲーム界で有名なプレイヤーも参加されました。(又吉氏)

年齢制限のない「フリークラス」は、先着32名のところ申込み人数がオーバーしてお断りするほどで、県外からのオンライン参加もありましたよ。会場となったスタジオ前も観客で溢れ、大盛況でした。(福本氏)
 

シニア部門には比嘉孝則(ひが・たかのり)北中城村長、島田勝也(しまだ・かつや)北中城村観光協会会長にもお願いして参加していただきました。
ゲーム配信は、チャット機能で視聴者がコメント参加できますので、視聴者の声が届きやすいことが利点です。
村長はeスポーツ未経験なのですが、村長の参加はインパクトがあったようで、配信中のコメントは「村長すげぇ」「村長参加!!激アツw」とおおいに盛り上がりましたね。(又吉氏)

 
※バーチャファイター(Virtua Fighter) … 1993年、世界初の3D格闘ゲームとして登場し、一大ブームを巻き起こしたSEGAの格闘ゲーム。

eスポーツは、体力や年齢になく老若男女問わず誰もが楽しめ、指先も頭も使いますのでご高齢の方にも良い刺激になります。
「eスポーツといえばキタナカ!」と北中城村がeスポーツのメッカと認知されるよう、今後も『キタナカグスクeスポーツ選手権』を継続開催予定です。(又吉氏)

― 今後の目標を教えてください。
日本一の観光協会になるために、まずは沖縄一の観光協会を目指します。
数値目標はありませんが、当会が掲げる「価値基準と戦略 <ウェルネス(健幸)、サスティナブル(持続可能)、マーケティング(戦略構築)、DX(デジタル活用)、シェア&コラボレーション(連携)>」に準ずる発信をしていきます。
配信コンテンツとして、スポンサーがついて「番組」を作ることもひとつの目標です。
ぜひ「ライカムチャンネル」のご登録をよろしくお願いします!(又吉氏)

スタジオを有する利点を活かし、北中城観光協会は配信事業も展開中

― 配信を始められたことによって、何か変化はありましたか?
当協会はオンライン配信事業も行っています。
コロナ禍でオフラインが出来なくなったため、「スタジオを借りたい」「出張で配信してもらいたい」「動画を作って欲しい」など、配信事業の依頼が増えました。
例えば、株主総会の様子をオンラインでライブ配信したり、キャリア教育などの番組制作、自殺防止DVD制作などです。(福本氏)

ご相談を受けた際は、行政向けには面白さやクリエイティブなものを、民間には中長期のマーケティング戦略を提案しています。(又吉氏)



― 配信事業者として心掛けていること、重視されているのはどのような点でしょうか?
きめ細やかなサービスを提供するよう心掛けています。
例えば、配信されたい動画を持ち込まれる場合もあります。縦動画で持ち込まれた場合は、視聴する画面はほとんどが横長ですので、横向きで見やすいように加工したり、余計な雑音を取り除くなど、動画のクオリティを上げるよう手を掛けて編集しています。
そのほか著作権の確認など、こちらで出来る限りのことを徹底して行うようにしています。(福本氏)

配信事業者として、お客様からいただく金額以上の結果を出すことを重視しています。
それが、“頼んで良かった”とお客様の満足に繋がり、ひいては北中城の観光にも繋がっていくと考えています。(又吉氏)


 
― 配信事業に関して、沖縄ならではの利点、あるいは困った点やその解決方法など、もしあれば教えてください。
沖縄というか、地方はどこでも同じだと思うのですが、人手が足りない点が不利な点ですね。

利点としては、元テレビマンや専門家の方から直接話が聞けたりアドバイスを頂ける点、地理的にもコンパクトなので気軽に会えるし出掛けられる点ですね。
人と人の垣根の低さと言いますか、心理的にも物理的にも近いというのは、狭い沖縄ならではだと思います。
また、沖縄のイメージの良さ、土地が持つブランドイメージの良さも利点だと思います。(又吉氏)
 

【写真提供/ISCO】スタジオキタナカの機材

― 配信事業者さん選びのポイントがあれば教えてください。
ぜひウチにいらしてください!!(笑)
専門の配信事業者さんと比べますと、クオリティは落ちますが価格は抑えられます。
テレビ局並の高いクオリティが必要であれば配信事業の専門業者さんへ、そこまでのクオリティは必要なく価格を抑えたいという方、オンライン配信のファーストステップとしてはぜひ「スタジオキタナカ」にいらしてください。
ウチで慣れてきたらほかの技術者さんや他社さんへ、ステップアップされたら良いと思います。(又吉氏)

― もし北中城観光協会さんにお願いする場合は、配信作業は完全にお任せできるのでしょうか?
はい。完全におまかせください。当社のスタジオに手ぶらでいらしてください。(福本氏)

これからオンライン配信をはじめてみたい方へのアドバイス

いま世界中においてメディア接触時間は、テレビ・新聞・雑誌よりも、インターネットが長くなっています。なかでもYouTubeの視聴時間は突出しています。
今後はどうなるかわかりませんが、いま配信をはじめるならば、多くの人が観ているYouTubeの活用をおすすめします。
もちろん、来年には別の配信プラットフォームが流行りになっているかもしれませんので、そのあたりは柔軟に対応していただければと思います。

配信は、スマホ一台で可能なことで、勉強すれば誰にでも出来ることです。
まずはご自分でチャレンジしてみて、“難しいな”と思う方は是非ウチにいらしてください。
ひとりでは出来ないことをやってみたい、さらにステップアップして自分たちでは難しそうなことに挑戦してみたいという方、ご相談に乗ります。(又吉氏)
 
一般社団法人北中城村観光協会事務局長・又吉演氏(写真左)と「スタジオキタナカ」店長・福本偉予里氏

3.がらまんホール プロデューサー・小越友也氏が語るオンライン配信事情


宜野座村文化センター がらまんホール https://garaman.jp/
宜野座村の「文化のまちづくり」の拠点として2003年4月オープン。席数約400席。自主事業と貸ホール事業を行っている。
ホール名は、宜野座村のシンボルとして広く親しまれている標高253.8mのガラマン岳が由来。「がらまん」とは、鞍が乗っていない裸馬(カラウマ)の方言で、山の稜線がカラウマに似ていることからガラマン岳と呼ばれている。
がらまんホールは、沖縄県内トップクラスの音響設備機器を完備しており、地元の子どもたちによる公演や伝統芸能公演など地域に密着したイベントから、世界的アーティストのコンサートまで、幅広く文化芸能を体感できる稀有なホールとなっている。

コロナ禍により2020年2月からオンライン配信を開始。YouTubeチャンネル「Garaman Hall」でさまざまなコンテンツを配信中。とくに人気の高いコンテンツ、日本語字幕入り「沖縄芝居」と「文化講座」はともに再生回数1万回を超える。

宜野座村文化センター がらまんホールプロデューサー・小越友也(おごし・ともや)氏
広島県出身。琉球大学教育学部音楽科卒業。沖縄県内初の音楽専用ホール「南城市文化センターシュガーホール」で芸術監督故・中村透(なかむら・とおる)氏のもとでホール運営、アートマネージメント等の経験を積んだ音響のプロフェッショナル。
2005年から、がらまんホールと専門家契約を結び、同ホールの企画・運営・管理を委託され、がらまんホール・プロデューサーとしてホールを牽引している。

「宜野座村文化センター がらまんホール」を牽引されるプロデューサーの小越友也氏にお話を伺いました。
<取材日:2021年12月14日>

ソーシャルディスタンスを表した座席写真が話題に。SNSの影響力を実感

― がらまんホールが全国的に注目されるきっかけとなった写真がありますね。
その写真はコロナ真っ只中の2020年5月、「ソーシャルディスタンスで客席をとったらどうなるか?」とスタッフ3名で客席を移動して20回ほど定点撮影した一連の写真を合成して作りました。前後2メートル間隔をとって座った状況を写真にしてみたのです。約400席が、ソーシャルディスタンスを確保した状況ではわずか60人で満席となってしまいました。

大きな話題となった「がらまんホール」のソーシャルディスタンスを表した写真【引用】Twitter @garamanhall 宜野座村がらまんホール

ソーシャルディスタンスを表した合成写真をfacebookやTwitterに投稿したところ、Twitterではリツイート数が全国5位となり、海外からもお問合せをいただくなど、大変大きな反響をいただきました。
いまやTwitterやfacebookなど、SNSの情報の伝達速度はテレビ・新聞並みか、それ以上となっています。SNSを通じて「がらまんホール」が全国的に知られるようになり、改めてSNSの影響力の大きさを実感しました。

コロナを機に配信開始。配信によって気付きがあり、意識が変化

― オンライン配信を始められた時期と経緯を教えてください。
配信を始めたのは2020年2月、コロナになってからです。
コロナ禍でホールはクローズしていますから、ファン層を繋ぎ止めておくためにYouTubeで配信をはじめました。
コロナ前は劇場にご来場いただくことが目的でありメインでしたが、オンライン配信をはじめてみると、ホールには400名しか入らないのに、ライブ配信では700~800人が視聴している、ということが起きました。
これは、本来ホールに入ることのできない人数が、配信を通じてホールに訪れていることになります。
つまり、オンライン配信によって入口が増えた、間口が広がったということです。
物理的に劇場に足を運ばなくても、“劇場への入口はどこでも良いのだ”ということに気付かされましたね。

― 配信を始められたことによって、何か変化はありましたか?
こちらの意識が変わりましたね。
ウチナーグチがわからない人にも沖縄芝居が楽しめるように、あらすじや見どころを演者が解説したものを収録して、公演前にYouTubeで事前講座を配信するようにしました。
観客は事前にYouTubeで好きな時間に学ぶことができ、こちらとしては公演の告知PRができるというメリットがあります。テレビで告知CMを流すよりも双方のメリットが大きいと感じました。


【写真提供】がらまんホール

また、アーカイブをきちんとしたいと考えるようになりました。 コロナ前は、ホールの定点カメラによる記録映像しかありませんでしたが、現在は催し物を演る都度、できるだけきちんした機材や複数台のカメラでしっかりとした映像を残すようにしています。



― オンライン配信における課題はなにかありますか?
現在配信しているコンテンツはすべて無料で視聴いただけますが、将来的にはチケットと同様に有料化しなければならないコンテンツが出てくるかもしれません。
配信における課題は、どのようにしてコンテンツを有料化するのかという点と著作権ですね。
現在YouTubeではコンテンツを有料化するとは禁じられていますので、別の配信プラットフォームにするという考えもあります。それと、YouTubeは一度アップした映像を変更したい場合、差し替えができないため、もう一度別にアップし直す必要があり、リンクも変わってしまうという点はネックですね。
劇場は、今後ご来場いただける方には生舞台を楽しんでいただき、ご来場できない方には配信映像で楽しんでいただくという、良い意味でのダブルスタンダードになるかもしれません。

人気コンテンツは日本語字幕付き「沖縄芝居」と学べる「文化講座」

― 反響の大きな企画は何でしょうか?
すべてウチナーグチで演じられる「沖縄芝居」の反響が大きいですね。視聴回数が1万回、2.5万回を超えるものがあります。
海外にいるウチナーンチュが視聴されていたり、月日を追うごとに再生回数はどんどん伸びています。
日本語の字幕をつけて配信していますので、ウチナーグチがわからない方にも楽しんでいただけます。今後は英語字幕も付けられればと考えています。
 

次に人気が高いコンテンツは、文化講座シリーズです。
エイサー、獅子舞、沖縄芝居、伝統芸能などの解説を行っている動画ですが、学べる講座は5年、10年と長い目でみて、今後も再生回数が増えていくと思います。

公共施設からオンライン配信を行う際のチェックポイント

― 公共施設からオンライン配信を行う際に知っておいた方がよいことがあれば教えてください。
  合わせて現在の <がらまんホールの状況> もお願いします。
(1) 回線の確認
公共施設からオンライン配信を行いたい場合、まず回線(インターネット回線)の有無を確認しましょう。
借りた場所に専用の単独回線があればよいのですが、単独回線を引いているところはまだ限られていると思います。
十分な予算があれば、1ヶ月以上前からNTTさんと調整をして、配信当日だけ単独回線を引くことも可能ですが、費用はそれなりにかかります。
Wi-Fiを使ってのライブ配信は厳しいかと思いますので、回線を借りられるかどうか、どのような回線があるかを施設に確認しておくとよいでしょう。

<がらまんホールの回線状況>
◎ 事務所で使用している光ファイバー回線(単独タイプ)を無料でお貸ししています。
ただし、事務所との共有回線になりますので、回線が混み合う場合に遅延が発生するなど、クオリティの保証は致しかねますのでご了承ください。
◎ ご予算がある場合は、配信日に単独回線をホールまで引くことも可能です。(別途費用発生。事前に要調整)
現在、ホール専用単独回線を引くよう村に依頼しています。次年度以降になりますが、回線についての課題は近々クリアできるかと思います。


(2) 備品の確認
音響、照明、カメラ機材など、どのような備品があるのか確認しましょう。
足りなければ自前、レンタル、もしくは事業者に依頼するなど準備をしましょう。
機材はピンきりですので、目的と予算に合わせてご検討ください。

<がらまんホールの備品状況>
◎ 映像用カメラ、ケーブル、レコーダーなどは現在ありませんが、今後揃えるよう検討中です。
◎ ミキサーやスピーカーなどの音響、照明はプロ機材を揃えています。
・ピアノ … スタインウェイグランドピアノ D-274
・デジタル・ミキサー … Soundcraft Vi3000
・スピーカー … TW AUDiO、Taguchi
 

公共施設からの配信はスマホでも可能?

― いまやスマホ一台で、誰でもどこからでも、気軽に配信できるというイメージがあります。
よく聞かれるのは、「スマホでも配信できますよね?」というご質問です。
iPhoneでもきれいな映像は撮れますが、問題は音です。
例えば、PCやスマホを使ったオンライン会議などが簡単に行えるのは、発声者とマイク機器(PCやスマホ)の距離が近いから可能なのです。
発声者・音源とマイク機器との距離が近い、コンパクトな場所であれば問題はありません。

しかし、大きなホールの場合は、発声者や音源、スピーカーから離れたところから撮影することになりますので、映像は撮れても、音をきれいに拾うことが難しくなります。
ホールのような大きな公共施設では、配信用に音を拾うマイクを考慮する必要があるでしょう。
 
【写真提供】がらまんホール

コンテンツの生配信の必要性を見極める。ライブ配信の課題と方法

― 配信にはライブ配信と、あらかじめ収録しておいたコンテンツを配信する場合がありますね。
「ライブ配信」といえば、「リアルタイムな生配信(生中継)」を想像されると思いますが、「収録したコンテンツを決まった時間に配信する」という方法もひとつのライブ配信と言えます。

スポーツの場合は、収録したものを観るよりも、やはり生のリアルタイムで観た方が面白いですよね。
スポーツは時間を共有して楽しむものですから生配信が良いのです。

しかし、「劇場は同時性がそこまで必要なのか?」ということをときどき考えます。
役者さんのマイクが外れた、照明が当たっていないなど、劇場ではどのようなトラブルが起きるかわかりません。

加えて、「観客を対象としたホールの生」と「配信」では、見え方・聞こえ方が異なります。
講演会や式典のように照明が一定で音がシンプルであればクオリティはそれほど落ちませんが、音楽ライブやミュージカルなど、目まぐるしく照明が変わる、ギターやベース、ドラムなど複数の音が重なる場合は、ホールと配信では事情が異なります。
ホールの観客を対象とした音と光の設定のまま配信されたコンテンツを視聴すると、ホールではカッコよく聴こえるバンド演奏が視聴するとドラムがスカスカだったり、フリッカー(蛍光灯のちらつき)が映ったり、LEDライトが強調されるなど、ホールよりも配信はクオリティが落ちてしまいます。
 

【写真提供】がらまんホール

そこで、配信するコンテンツのクオリティを高めるためには、「配信に適した音と光」になるよう手を加える必要があります。
リスクを犯して無理に生配信するのではなく、編集してコンテンツのクオリティを上げてから配信するという方法も選択肢として挙げられます。
その場合、「収録編集したコンテンツを決まった時間に配信する」という方法を取れば、こちらもライブ配信(疑似ライブ)となります。
そのコンテンツが生配信にする必要性があるかどうか、一度立ち止まって考えてみてもよいかと思います。



<がらまんホールのライブ生配信状況>
当ホールはしっかりとした音響設備機材はありますが、配信用の機材やカメラなどは現時点ではありません。
生配信でクオリティ(特に音)を求めるには、配信用とホール用の2種類のマイクセッティング、配信用音声ブースなども必要となります。
クオリティの高いライブ配信を行うためには、もう少し環境を整えて行く必要があります。

公共ホールの役割と目標。アート×最先端テクノロジーも視野のひとつ

― 配信の際に心掛けていること、重視されているのはどのような点でしょうか?
クオリティはできるだけ高く。一過性のブームではなく、色褪せないものを作っていきたいですね。
舞台を観に行ってみたいけれど、何らかの理由で行けない、という人は数多く潜在しています。そのような方たちのためにも、配信するコンテンツも本番同様のクオリティでお届けしたいと思います。
クオリティの高い映像を作り上げることは大変な作業ですが、配信を通じて映像の可能性を探り、質の高いコンテンツをお届けしていれば、 視聴者の方の“劇場へ行ってみようかな”という気持ちが高まり、劇場へ足を運ぶ手助けに繋がると考えています。


【写真提供】がらまんホール

― 今後の目標を教えてください。
継続的に文化・芸能・芸術の様々なジャンルのコンテンツを届けることです。
みなさんが知っているようで知らないこと、出演者はもちろんですが、地謡(じかた)や裏方にもスポットを当てて、文化・芸術の面白さ、魅力を発信し、最終的には劇場に足を運んでいただきたいですね。

また、最新テクノロジーのAR(拡張現実)を使った映像と舞台の融合など、先進事業へのチャレンジも公共ホールの使命だと考えています。
先日も東京から機材とクリエーター、プログラマーが来沖されて、ハイクオリティなAR融合舞台を実現しました。
 

【写真提供】がらまんホール

アートとテクノロジーの領域が重なってきているなと感じました。
数はゆくゆく付いてくると思いますので、視聴者数や視聴回数に目を奪われずに、文化を高めるようにしていきたいですね。
 
2021年12月にがらまんホールで公演されたAR融合舞台の準備風景【引用】Twitter @garamanhall 宜野座村がらまんホール

大切なのは、何がしたいのか? 配信の目的を明確に

― これから配信をはじめようとされている方へアドバイスがありましたらお願いいたします。
劇場としてはプロフェッショナルを目指していますが、貸ホールとしてお手伝いできること、使用できる機材は限られています。
当ホールにはしっかりとした音響と照明はありますが、現時点では備品として映像収録カメラや配信機材はありません。配信される場合は、業者さんから機材をレンタルしていただく必要がありますが、機材はピンきりです。
当ホールをご利用される場合、配信事業者をご紹介することも可能ですがこちらも値段に幅があり、テレビ局と組んでいるような専門業者に依頼すると何百万とかかりますし、町のビデオ屋さん的なところであれば数万~数十万円でやってくれると思います。

クオリティの高いものを配信するために、やり方次第でお金はいくらでもかけられますので、クオリティと予算のバランスを考える必要があります。
そこで、配信をはじめる前の大切なポイントは、“何がしたいのか?”ということです。
まずは、配信の目的を明確にすることですね。

4.まとめ

沖縄のオンライン配信事情とこれからオンライン配信をはじめる方へのアドバイス

  1. 1. オンライン配信はスマホ1台からでも始められる。
  2. 2. 沖縄で人気のコンテンツは「格ゲー(格闘技ゲーム)」、日本語字幕入り「沖縄芝居」、学べる「文化講座」。
  3. 3. オンライン配信によって入口が増え、間口が広がる。
  4. 4. 視聴者に喜ばれる「学べる講座」関連は、コンテンツ制作側のPR告知にもなり、双方に大きなメリットがある。
  5. 5. ホールや公共施設など広いところから配信する際は、配信用マイクを入れるなど、音のクオリティを考慮する必要がある。
  6. 6. 収録編集後に配信するなど、配信方法の工夫によってコンテンツのクオリティをさらに上げることができる。
  7. 7. 有観客ホールでの音楽ライブやミュージカルを配信する際は、音と光の差異が生じるので、クオリティを上げるために視聴に適した調整・編集を行ってから配信すると良い。
  8. 8. まずはやってみて、難しいと感じたり、さらにクオリティを高めたいときは、配信事業者に相談してみる。
  9. 9. “何がしたいのか?”。配信の目的を明確にする。


<取材を振り返って>
観光のプロフェッショナルと文化のプロフェッショナル、現場を牽引されている方のお話はとても興味深く、勉強になりました。
又吉氏、福本氏、小越氏、みなさまに共通していると感じたのは、楽しんでお仕事をされているな、という点でした。
とてもお話も上手な方々です。気になった点やご興味を持たれた点など、ご質問も可能ですので、ぜひ1月18日(火)のセミナーにご参加ください。セミナーは参加無料、オンラインでのご参加も可能です。


  

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<取材協力> 
一般社団法人北中城村観光協会(https://kitapo.jp/) 又吉演様、福本偉予里様
宜野座村文化センター がらまんホール(https://garaman.jp/) 小越友也様
ご多忙のところ、取材ご協力まことにありがとうございました。


<取材・撮影・執筆>
合同会社ジョートー(https://jyo-to.okinawa/) 安積美加
※当特集記事の内容は2021年12月8日・14日、取材時の情報です。