医療現場で活用されるAR(拡張現実)

最終更新日:2021年02月07日

ARは「Augmented Reality」の略称で、日本語で“拡張現実”という意味になります。現実の風景にバーチャルな視覚情報を重ねて表示して、現実に見ている世界を拡張する技術のことを指します。2016年にリリースされたアプリ「ポケモンGO」にも活用されて、ゲームなどのエンターテインメントの分野で多く使われるようになっていますが、医療現場でもARの導入が着々と進んでいます。

医療現場でのAR活用

医療の現場でのARの活用例としては、手術、診察、治療のほか、学習用教材としても利用されています。

手術で使われている医療用デバイスの一つにMicrosystems社の「GLOW800」が挙げられます。AR技術によって患者の器官の様子を可視化して、脳血管手術の工程をサポートしてくれます。AR蛍光システムと医療用に用いられるシアニン色素・ICGを組み合わせることで、手術を施す部分に色を重ねて表示。それによって術部を周囲の血管や器官と見分けやすくなります。難易度の高い手術もAR技術によって成功率を高めることができるのです。

“遠隔”が医療の可能性を広げる

STAR(System for Telementoring with Augmented Reality)プロジェクトでは、遠隔医療を支援するプラットフォームを提供。執刀医に別の医師が遠隔で指示を出すことで、手術をよりスムーズに行うことも可能となります。具体的には、執刀医が患部にモニターを近づけることによって遠方の医師と画面を共有することができます。遠方の医師がタッチパネルに触れて切開するラインを指示すると、AR技術によって患者の術部にラインが表示されるので、執刀医はそのラインに沿って切開。このようにARを利用した遠隔医療は今後も増えていくことが予想されています。

診療に関しても“遠隔”の可能性が高まっています。NECソリューションイノベータ株式会社が2018年の「国際モダンホスピタルショウ2018」において「電子聴診器とスマートグラスを用いた遠隔診療ソリューション」を参考出展しています。在宅患者のもとを訪れた看護師がスマートグラスを着用して電子聴診器で患者を聴診。それを遠方の医師がカメラから転送された映像をパソコンなどのモニターで確認しながら、心音や呼吸音をヘッドホンで聴いて確認します。あくまでも参考出展ではありましたが、これによって医師が患者宅に直接訪問しなくても遠隔で診療が可能となりますので、医師不足の状況においてかなり有効なシステムだといえます。

ARを利用した画像診断

画像診断においてもARの技術が使われるようになっています。MRIやレントゲンでの病態の動画診断は技術が高いのですが、それでも数パーセントの誤診を引き起こすと言われています。その原因は、検査して得られた画像を医師が脳内で立体的(3次元)に組み立てて診断を行うからです。その脳内での作業をAR技術に置き変えることによって誤診の確率をより低くすることが可能になります。

また、カナダのアルバータ大学の研究チームが「ProjectDR」というデバイスを開発しています。このデバイスは、骨や臓器などの体内の映像をAR技術によって人体の表面(胸部や背中など)に重ねて表示することができます。MRIやCTスキャンによって取得した映像を本人の体に投影して、しかも身体の向きや動きに合わせて映像も自然に映し出されるので、診断の精度も高くなります。

このデバイスに関しては、まだ日本で利用できない状況ですが、より精度を上げて広く実用化されるようになれば、新人の医師の教育・学習、手術計画の共有などに利用できると期待されています。

他に、スイスのKapanu社が「Kapanu Augmented Reality Engine」を開発しています。これは歯科治療向けのソフトウエアで、治療前の患者の口腔内を3Dスキャンして、装着予定の歯の3Dモデルを、AR技術を使って表示できるというものです。治療を受ける前に、治療後のイメージがリアルな感じで分かるので、患者側からしても安心して治療を受けられますし、かつ、満足できる結果が求められます。

3D解剖モデルを研修で利用

ISIBLE BODY社が提供している「ヒューマン・アナトミー・アトラス」というアプリケーションがあります。このアプリを活用することで、人体の詳細データが確認できるようになります。性別ごとの3D解剖モデルを、AR技術を使って目の前の空間に投影することで、人体を細部に至るまで知ることができます。人体の神経、今後の医療におけるAR技術を活用、筋肉など、パーツごとに360度、どの角度からも見られるのが大きな特徴です。写真や映像よりもフレキシブルに活用できますし、かなり安価なアプリなので、医療を目指す学生の勉強にも役立っています。各部位の機能が説明される動画が付いていて、疾患などの説明も読むことができるのも大きな特徴と言えるでしょう。

HoloLensを使った手術システムへの期待

これまで述べてきたように、医療においてAR技術はさまざまな形で活用されています。期待値の高いものとしては、アメリカNovarad社の「OpenSight Augmented Reality System」も挙げることができます。マイクロソフトのHoloLensを使った手術用医療技術として2018年に初めてFDA(アメリカ市場で医療機器を販売するための認証)を取得していて、手術を行う前に患者の体内を確認することで、手術の精度向上につなげることができる技術ということで注目されています。

まずは患者の身体内部に関する2D、3D、4Dの画像を患者自身に重ねて映し出します。これまでVR(仮想現実)の技術を使って同様のことをすることができましたが、VRと違うところは、患部だけでなく、患者の身体や周囲の様子も同時に見られること。広い範囲を確認できることで、手術時間の短縮、より良い手術計画を立てることができます。実際に、手術前のイメージとARを組み合わせることで、医療行為の精度やスピード、安全性も向上させることになったようです。このシステムはマルチユーザーに対応していることも特徴で、HoloLensを装着した複数の人が同時に使えるので、しっかりと情報を共有できます。研修医向けのバーチャル解剖のコンテンツも用意されているので、実際の手術での活用のほかに、研修医、新人の医師のトレーニングのために使うこともできます。

株式会社シード・プランニングの調査によると、医療分野で使われているAR/VR技術の市場は今後も拡大を続けていくと予想されていて、2021年は約153億円の市場規模(予想)が2026年には2倍以上の約342億円になると予測されています。

今後の医療におけるAR技術を活用

AR技術によって、手術の精度・スピードを確実に向上させることができます。人体への画像・映像の投影できることが大きな利点と言えるでしょう。そして、冒頭で触れましたが、“遠隔”も大きなキーワードとなります。難易度の高い手術は、その分野の専門の医師の経験と知識が必要となります。同じ疾患でも患者によってその容態は違っているので、遠隔でその様子が分かり、執刀医に伝えることで成功率も高くなります。

そして、やはり新型コロナウイルス感染症の影響下にある現状としては、手術や診察に関しても遠隔というのは、より多くのシーンで活用されていくことでしょう。


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